大物漫画家「漫画村を潰したのはナンセンス。出版業界こそ漫画ムラ」
人気漫画「ブラックジャックによろしく」をウェブ上で無料公開して著作権のあり方に一石を投じたことで知られる漫画家、佐藤秀峰(しゅうほう)さん(44)は、海賊版サイト「漫○村」を「批判しない」という。海賊版は、制作者が得られるはずの利益をかすめとっているのに、なぜ? その理由を聞くと、佐藤さんは出版業界こそが旧態依然としたムラ社会の「漫画ムラ」だと指摘した。
――海賊版サイト「漫○村」が大変な人気を得ていた今年1月、ご自身のブログで「僕が漫○村を批判しない理由」を表明されました。なぜですか。
まず肌感覚として、海賊版によって打撃を受けた実感がありません。数年前、僕の作品が電子書籍ストアですごく売れたとき、複数の海賊版サイトが作品をばらまいたことがありました。その際、売り上げが落ちることはまったくありませんでした。「漫○村」全盛期もそうですね。売り上げは前年同時期と比べて伸びていたし、伸び率もアップしていました。海賊版が違法な存在であることは確かですが、どんな影響があるのかも正確にはわからないのに、とにかく漫○村を潰さなきゃいけないという考えはナンセンスです。
――海賊版が成り立つ背景には、音楽業界ではすでに定額聴き放題サービスが定着しているのに、出版業界はウェブ展開が遅いからだという指摘もあります。
遅いですね。海賊版で一もうけしたい人たちからすれば、ありがたい状況でしょう。出版社に任せていても何も始まらないし、だから僕みたいに、出版社とだいぶ距離を置く人が出てくるんじゃないでしょうか。
ーー2009年に電子書籍サイト「佐藤秀峰 on Web」でご自身の漫画を売り始めました。
僕が自分で売り始めた当時、出版社は「漫画は紙で読むもので電子に置き換わるはずがない」、「電子に魂を売るのか」みたいな雰囲気だった。でも実際には、電子書籍は伸びてきて、紙はどんどんダメになった。わかりきっていたことなのに、出版業界は対応がゆっくりでした。
――なぜ出版業界は遅れているのだと思いますか。
ほんと「漫画村」なんですよ。ムラ社会なんです。「紙に廃れてほしくない」という願望も入っていたんじゃないですかね。出版社が自ら電子をやるっていう意識もあまりなかったのかもしれないし、紙の本を売るのが自分たちの仕事なので、誇りとかいろいろあったのかなと思う。自分たちの外にも世界があることをわかろうとしなかった。